ベトナム語翻訳を正確にする日本語の書き方|誤訳が起きる理由と現場の対策
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技能実習生や特定技能のベトナム人スタッフを受け入れている現場で、翻訳を入れたのに指示が伝わらない、ベトナム語翻訳をもっと正確にしたい、という相談は珍しくありません。原因が翻訳ツールの側にあるとは限りません。日本語の書き方の側にあることも少なくありません。
どの翻訳ツールを使っても、ベトナム語翻訳の精度には、日本語とベトナム語の構造の違いから来る限界があります。この記事では、誤訳が起きる理由を先に整理し、そのうえで日本語側でできる対策と、訳を確かめる手順をまとめます。
日本語とベトナム語は、丁寧さの持ち方が構造から違います。日本語は動詞の形を変えて敬語をつくりますが、ベトナム語にその仕組みはありません。ベトナム語の丁寧さは、相手をどう呼ぶか(anh、chị、em のような人称)と、文末に ạ のような語をつけるかで決まります。つまり、日本語の敬語をどれだけ厚く積んでも、ベトナム語側では敬語として積み上がらず、平たい一文になって届きます。
これは翻訳の失敗ではなく、二つの言語の設計の違いです。だとすれば、打ち手は日本語側にあります。
誤訳が起きる四つの型
機械翻訳でよく見られる誤訳には、次の四つの型があります。どれも、訳す側が原文にない情報を推測で補わなければならないときに起きます。
- 主語が書かれていない。日本語もベトナム語も主語を省ける言語ですが、ベトナム語に訳すときは、誰の話かを人称で決める必要があります。「終わったら連絡して」「楽しかった?」のような文では、訳す側が「私」か「あなた」か「私たち」かを推測します。推測が外れると、相手についての質問が、こちらの話として届きます。
- 数字に単位がない。「費用は500です」「3つ持ってきて」のように単位を省いた数は、訳の中で別の単位や桁に読み替えられることがあります。金額や薬の量では、これがいちばん重い誤訳になります。
- 言い方で肯定と否定が入れ替わる。「いいです」「結構です」「大丈夫です」は、日本語でも前後がなければ「はい」か「いいえ」か決まりません。訳された文では、どちらか一方に確定して届きます。
- 前の話を踏まえないと決まらない語。「それ」「あれ」「例の件」、あるいは複数の意味を持つ語は、直前のやり取りを知らないと訳し分けられません。一通だけを読んで訳すと、別の意味で届くことがあります。
四つとも、原因は翻訳ツールの性能というより、原文が決めていないことを訳す側に決めさせている点にあります。逆に言えば、日本語側で決めて書いておけば、誤訳を減らしやすくなります。次の節からは、その書き方を具体的に見ていきます。
敬語で丁寧にするほど、指示は弱くなる
日本語の現場では、強い指示を避けるために婉曲な形を使います。「〜していただけると助かります」「できれば〜でお願いします」といった言い方です。日本語話者どうしなら、この形は「丁寧だが、やってほしい」と読めます。
ベトナム語に訳されると、この二層が一層になります。残るのは依頼の内容だけで、「必ずやってほしい」という強さは文の形からは復元できません。読んだ側は、任意の提案として受け取るか、判断がつかずに保留にします。どちらも現場では遅れになります。
逆の事故もあります。日本語で短く言い切った指示は、ベトナム語では素っ気ない命令として届きがちです。日本語側で丁寧さを足したつもりの部分が消え、削ったつもりのない冷たさだけが残る、という向きです。
対処は単純で、丁寧さと指示の強さを分けて書くことです。強さは文の形ではなく、言葉で書きます。「必ず」「今日中に」「やらなくてよい」を本文に入れてしまえば、どの言語に訳されても残りやすくなります。
日本語側で決めておく五つのこと
現場で効いた書き方を五つに絞ると、次のようになります。
- 一文に指示は一つ。二つ以上の依頼が入った長文は、訳したときに前半だけが伝わることがあります。
- 条件を先に書く。「風があるので、午前中だけ散布します」のように、条件を文頭に置きます。日本語は条件を後ろに回せますが、ベトナム語は語順が主語・動詞・目的語で、前から順に読める形のほうが崩れにくくなります。
- 主語と対象を省かない。日本語は誰が誰にやるのかを省けます。省いた文は、訳されるときに補われるか、抜け落ちます。「私が」「あなたが」を書くだけで曖昧さが減ります。
- 時刻・場所・数量は数字と単位で書く。「あとで」「上のほう」「少し」は、訳しても曖昧なまま残ります。数字には「円」「個」「時」「mg」のように単位を必ずつけます。
- 婉曲な依頼を使わない。「〜してもらえると助かります」は「〜してください」か「〜しなくていいです」に置き換えます。
下は、この書き方で出した朝の指示が、そのままベトナム語で届いている例です。

時刻、階、禁止の範囲がすべて文に書いてあるので、訳された側でも解釈の余地が残りにくくなります。
ある農業法人の代表は、「『風があるから午前中だけ』みたいな条件付きの指示が、ちゃんと条件付きで届くのが大きい」と話しています。条件を先に置いた一文は、条件ごと届きやすくなります。
安全に関わる言葉は、言い換えない
現場の日本語には、同じことを指す言い方がいくつもあります。安全に関わる場面では、これが危険になります。
よく知られた例が「上がる」です。「先に上がっていいよ」は、日本語では「先に帰っていい」の意味で使われますが、字面としては「上へ行く」とも読めます。足場の上で作業しているスタッフに向けて使うと、意味が反転して届く可能性があります。関東のある建設会社の現場監督は、「先に上がってよ」が「先に降りていい」と訳されて足場の上で混乱が起きてから、口頭だけで済ませるのが怖くなったと振り返っています。
対処は、安全に関わる語を現場で固定してしまうことです。「終業」「退勤」「立入禁止」「停止」「高所」といった語を決め、朝礼でも LINE でも同じ語だけを使います。言い換えの幅を先に潰しておくと、翻訳の側で選択が起きにくくなります。
固定する語は多くなくてかまいません。その現場で事故につながる十数語を紙一枚に書き出し、日本語と対応するベトナム語を並べて共有しておけば足ります。新しいスタッフが入るたびに、その一枚を渡します。
声調記号が落ちたベトナム語と、音声メッセージ
ベトナム語はラテン文字で書きますが、文字の上下につく記号が声調と母音の質を表します。この記号が落ちると、別の語になります。ma、má、mà、mả、mã、mạ は、記号を外すとすべて同じ ma です。
現場のスタッフは、手袋のまま、あるいは急いで打つときに、この記号を省いて入力することがあります。日常のやり取りでは前後から読めますが、部品名や数量が混ざった業務連絡では読み違いが起きます。
これを避けやすいのが LINE のボイスメッセージです。打つ必要がないので記号は関係なく、騒音の少ない場所であれば、そのまま送れます。翻訳ボットは音声をいったん文字にしてから訳し、結果はテキストで投稿します。ボットが音声を作って返すことはありません。元のボイスメッセージはトークに残るので、あとから聞き直せます。

なお、騒音の大きい場所では音声の認識精度が落ちます。機械が回っている真横ではなく、少し離れてから録るほうが認識されやすくなります。写真やスクリーンショットの中の文字は読み取れないので、掲示物を共有したいときは、文字として打ち直すか、声に出してボイスメッセージで送ってもらってください。
この書き起こしには、もう一つ読み取れることがあります。ベトナム語の Anh ơi(年上の男性への呼びかけ)と Em(自分を年下として指す語)が、日本語では「すみません」と「です・ます」に吸収されている点です。ベトナム語側は誰が誰に話しているかを人称で常に示していますが、日本語にはその情報を置く場所がありません。日本語から返すときは、相手の名前を文頭に書いておくと、この情報を補えます。
訳が正確かどうかを、現場で確かめる手順
ベトナム語が読めない監督にとって、いちばん難しいのは、訳が正確かどうかを自分で判断できないことです。完全に正確な機械翻訳はないので、確認の手順を運用に組み込んでおきます。
- 大事な指示には、復唱を返してもらう。「わかりました」だけでなく、「何時から、どこで、何をするか」をベトナム語で書いて返してもらいます。その返信が日本語に訳されて届くので、指示と一致しているかを日本語で照合できます。上の足場解体の例でも、作業員の返事「お昼まで2階で作業します」が日本語で届くので、「10時以降は3階に入らない」という指示と矛盾しない返事かを、その場で照合できます。
- 返事が質問とずれていたら、訳を疑う。相手の返答が噛み合わないときは、相手の理解より先に、こちらの一文が別の意味で届いた可能性を考えます。主語・単位・肯定か否定か、の三点を足して、言い直します。
- 言い直すときは、同じ語を繰り返さない。誤訳された語をそのまま使うと、同じ訳が返ってきます。「上がる」を「帰る」に、「それ」を具体的な名前に置き換えます。
- 原文と訳文を並べて残す。原文と訳文が同じスレッドに並んでいれば、あとから「どう訳されていたか」を確かめられます。誤訳が起きた一文も、どこで意味がずれたかを見つける材料になります。
契約書、診断、服薬の指示のように、誤訳が許されない内容は、チャットの翻訳だけで済ませないでください。通訳や翻訳の専門家を入れるべき場面です。
報連相は、言葉ではなく手順で渡す
報連相は日本の職場の習慣であって、ベトナム語に一語で対応する言い方がありません。訳せば言葉としては出てきますが、何をどこまで誰に伝えるのか、という中身は伝わりません。新人のベトナム人スタッフが報告をしないのは、意図ではなく、基準を渡されていないことが理由である場合があります。
言葉ではなく手順に置き換えます。たとえば次の三つに分解します。
- 何が起きたら:機械が止まった、数量が合わない、けがをした、間に合わない
- 誰に:班長、または不在なら事務所
- いつまでに:気づいた時点ですぐ
この三行を LINE のグループのノートに貼り、母語で読める状態にしておけば、習慣ではなくルールとして運用できます。「報告してください」と抽象的に言うより、「機械が止まったら、すぐ班長に書いてください」と書いたほうが動きます。
LINE グループでの始め方
やり方は難しくありません。翻訳ボットを友だちに追加し、対象のグループに招待したうえで、グループの中で言語を指定します。日本語版の書き方は、言語名を空白で並べる形です。
@Echonora 日本語 ベトナム語
これで日本語とベトナム語が相互に訳されます。一度指定すれば、以降は発言のたびにコマンドを送る必要はありません。三つ以上の言語が混じる現場なら、同じ形で言語名を並べて増やせます。対応している言語名の書き方は対応言語リストで確認できます。
ツールごとの向き不向きはベトナム語翻訳アプリの比較とベトナム語翻訳を無料で使う方法と限界で、音声の録り方はベトナム語の音声翻訳を現場で使うで扱っています。導入の全体像や、翻訳が動かないときの確認順はLINE 翻訳botの仕組みと導入手順にまとめてあります。ベトナム語まわりの運用をまとめて見たい場合はLINE でベトナム語を翻訳する方法が入口です。
まずは一つのグループで試してください。無料のプランがあり、期限はなく、クレジットカードの登録も必要ありません。1日に訳せる件数に上限があるだけです。
よくある質問
ベトナム語翻訳は、どこまで正確ですか。
機械翻訳で、どんな文でも正確に訳せるものはありません。短く具体的に書いた業務連絡は伝わりやすい一方で、主語の省略、単位のない数字、肯定か否定か曖昧な言い方、前の話に頼る語があると、誤訳が起きやすくなります。書き方をそろえ、大事な指示では復唱を返してもらうと、ずれに気づきやすくなります。
翻訳の精度を上げるには、ツールを変えるべきですか。
ツールを変える前に、日本語の原文を見直すほうが効果が出やすいことが多いです。上の四つの型に当てはまる書き方をなくすと、どのツールでも訳のぶれが減りやすくなります。
指示を短くすると、冷たく感じられませんか。
ベトナム語側では、丁寧さは人称と文末の語で表れます。日本語を短く書いても、訳された文が失礼になるわけではありません。むしろ、条件と期限がはっきりしている文のほうが、読む側の負担は軽くなります。
日本語の敬語をベトナム語の敬語に置き換えてもらうことはできますか。
置き換える先の仕組みが同じ形では存在しないため、一対一の対応はつきません。丁寧さの強弱ではなく、依頼か指示か、いつまでか、を日本語の本文に書いておくほうが、ずれが起きにくくなります。
掲示物や書類の写真を送っても訳されますか。
画像やスクリーンショットの中の文字は読み取れません。文字として打ち直すか、内容を声に出してボイスメッセージで送ってもらってください。
やり取りの記録は残りますか。
原文と訳文が同じスレッドに並んで残るので、あとから読み返せます。「あのとき何と言ったか」の確認が、口頭だけの場合より速くなります。データの取り扱いについてはプライバシーポリシーをご覧ください。
まとめ
ベトナム語翻訳の精度は、日本語の書き方にも左右されます。誤訳の原因としてよくあるのは、主語・単位・肯定か否定か・前の話のどれかを、原文が決めていないことです。一文に一指示、条件を先に、主語と対象を省かない、数字と単位で書く、婉曲な依頼を避ける。安全に関わる語は現場で固定する。大事な指示は復唱で確かめる。報連相は言葉ではなく三行の手順で渡す。
そのうえで、書いたものが相手の母語で読める状態にしておく。この二つが揃うと、朝礼で言った内容の確認が短く済みやすくなります。
導入や運用の相談はお問い合わせフォームから受け付けています。現場のグループでそのまま始める場合は、下から友だちに追加してください。
