タイ語翻訳を正確にするには:誤訳が起きる仕組みと対策 | Echonora
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タイ人スタッフとのやり取りに翻訳を入れたあと、次に出てくる問いはたいてい同じです。「この訳、本当に合っているのか」。
やっかいなのは、機械翻訳の誤訳が壊れた日本語として出てこないことです。出力はいつも自然な文になっています。意味だけが違う。読んだ側は疑う理由がないので、そのまま作業に移ります。指示が伝わっていなかったと分かるのは、たいてい結果が出たあとです。
この記事では、タイ語と日本語のあいだで具体的に何が崩れるのかを構造から整理し、実際のやり取りで観測された誤訳の例を挙げたうえで、日本語で指示を出す側が精度のために何をできるかをまとめます。読み手は、現場で指示を出す立場の方を想定しています。
「正確そうな訳」がいちばん危ない
翻訳の失敗には二種類あります。
一つは、明らかに壊れている訳です。語順が崩れている、単語が抜けている、意味の通らない文になっている。これは害が小さい。読んだ側が「おかしい」と気づいて聞き返すからです。誤りが、その場で止まります。
もう一つは、自然な文として成立しているのに意味が違う訳です。こちらは止まりません。タイ人スタッフは書かれたとおりに理解し、書かれたとおりに動きます。日本側は伝わったと思っている。両者のあいだにずれがあることは、どちらの画面にも表示されません。
現場で効いてくるのは後者です。そして後者は、翻訳の性能を上げれば消える種類の問題ではありません。原文の側に情報が足りていないとき、翻訳は足りないぶんを推測で埋めます。推測が外れたとき、外れたことは出力に書かれません。
だからこの記事の結論を先に書いておくと、精度は三つの層で決まります。言語の構造、日本語側の書き方、そして誤訳に気づける仕組みがあるかどうか。順に見ていきます。
タイ語と日本語のあいだで崩れる四つの構造
タイ語と日本語は、文の組み立て方がかなり違います。翻訳が難しくなる箇所は、その違いに沿って現れます。
一つ目は、タイ語が単語のあいだに空白を入れない言語だという点です。 文はひと続きに書かれ、どこで語が切れるかは読む側が判断します。ここに打ち間違いが混じると、区切りの判断そのものが変わり、別の語として読まれます。日本語で言えば、変換ミスが意味の通る別の単語になってしまう状態に近い。タイ語のチャットは、スマートフォンで急いで打たれることが多いぶん、この種のずれが日常的に起きます。
二つ目は、タイ語には時制のための動詞変化がないことです。 いつの話かは、文脈や時を表す語で示されます。日本語も主語を省く言語なので、両側で情報が落ちます。「終わりました」なのか「終わります」なのかが、原文からは決まらない場面が出てきます。
三つ目は、指示語が指す相手の問題です。 日本語は主語も目的語も省きます。タイ語に訳すときには、省かれたものを補って代名詞を選ばなければなりません。そしてタイ語の代名詞は、人を指すのか物を指すのかを区別します。日本語の原文にその区別が書かれていない場合、翻訳はどちらかに決め打ちします。人と物を取り違えた訳は、文としては完全に自然です。
四つ目は、丁寧さの表し方です。 日本語は敬語・謙譲語・丁寧語という形で、動詞そのものを変えて丁寧さを表します。タイ語は動詞を変えず、文末の丁寧語や相手の呼び方で表します。仕組みが違うので、日本語側の細かい段階はタイ語側でそのまま再現されません。この点は後の節で詳しく扱います。
実際のやり取りで観測された誤訳
抽象論だけでは対策が立ちません。実際のチャットのログから確認された例を挙げます。いずれも、出力そのものは自然な文です。
打ち間違いが、意味の通る別の語として訳された例。 体重の話をしている流れで、タイ語の「น้ำหนัก(体重)」が打ち間違いで送られました。訳は「水位」になりました。文字の並びとしては水に関する語に近く、翻訳はそちらを選んでいます。会話の流れを見れば体重の話だと分かるのですが、その一文だけを見ると水位で筋が通ってしまう。
文脈がないと決まらない多義語の例。 タイ語の「เสีย」には、失う・壊れる・費やすなど複数の意味があります。相手が「あなたに เสีย してほしくない」と書いた場面で、直前の会話は支払いの話でした。つまり「お金を使わせたくない」という意味です。訳は「あなたを失いたくない」になりました。二つ前のメッセージまで読めば決まるのに、その範囲が使われないと決まりません。
指示語が人と物を取り違えた例。 話題に出ていた物について「それはあまり好きじゃないよね」と書かれた文が、タイ語では「あの人たちのことはあまり好きじゃないよね」と訳されました。前述のとおり、タイ語は人か物かを選ばなければならず、原文にその情報がなかったために人が選ばれています。
音声が別の言語として書き起こされた例。 設定した言語の組み合わせに含まれない言語として音声認識が働き、意味をなさない文字列が書き起こされ、その文字列がそのまま忠実に訳された、という事例も記録されています。入力の段階で外れると、そのあとの処理はすべて外れます。
ここで正直に書いておくべきことがあります。この種の誤りから完全に自由な機械翻訳は、私たちのものを含めて存在しません。 上の例は特定の製品の欠陥というより、言語のあいだに情報の落差があるときに必ず現れる構造的な罠です。だとすれば、現場で考えるべきなのは「誤訳をゼロにする方法」ではなく、「誤訳が起きたときに気づける状態をどう作るか」になります。
敬語・丁寧語の「温度差」はどこで消えるか
日本語の丁寧さは段階が細かい言語です。「止めて」「止めてください」「止めていただけますか」「恐れ入りますが止めていただけますでしょうか」。この四つは、依頼の強さも、相手との距離も、緊急度も違います。
タイ語にも丁寧さの表現はあります。文末に置く丁寧語や、相手の呼び方で敬意を示します。ただし段階の刻み方が日本語ほど細かくないため、日本語側で四段階あったものが、タイ語では二段階ほどに寄ることがあります。
実務で問題になるのは、丁寧さが失われることではありません。丁寧さと緊急度が、日本語では同じ言葉に乗っているという点です。 「恐れ入りますが」は丁寧さを上げると同時に、多くの場合「急ぎではない」という合図でもあります。逆に「止めて」は、ぶっきらぼうであると同時に「今すぐ」という意味を運んでいます。
この二つ目の情報が、訳を通ると落ちます。丁寧に書いた緊急の指示が、タイ語側では「ゆっくりでいい依頼」として読まれる。逆に、急いで短く書いた指示が、必要以上に強い命令として受け取られる。どちらも、翻訳としては間違っていません。日本語の丁寧さに二つの意味を負わせていたことが原因です。
対策は単純です。緊急度を、丁寧さとは別の言葉で書く。 「恐れ入りますが、本日15時までにお願いします」と期限を書けば、丁寧さがどう訳されても期限は残ります。

日本語側の書き方で精度は上がる
翻訳の精度は、原文の情報量に左右されます。日本語は省略の多い言語なので、書き手が意識するだけで改善する余地が大きく残っています。現場で効く順に挙げます。
- 主語と目的語を省かない。 「確認しておいてください」ではなく「田中さんが、3号機のオイル量を確認してください」。誰が何をするかが原文にあれば、翻訳は推測しなくて済みます。指示語の取り違えは、ここでほとんど防げます。
- こそあど言葉を実体に置き換える。 「それ」「あれ」「例の件」は、訳す側から見ると情報がありません。物の名前をそのまま書きます。
- 期限と数量は数字で書く。 「なるべく早く」「たくさん」は訳を通ると幅が広がります。「15時まで」「20個」なら幅が出ません。
- 一文に一つの用件だけを入れる。 長い一文は、係り受けの解釈が分かれる箇所が増えます。用件ごとに改行したほうが、結果的に速く伝わります。
- 否定の二重使いを避ける。 「確認しないまま進めないでください」は、訳を通ると極性が反転しやすい形です。「確認してから進めてください」と肯定で書きます。
- 固有名詞と略語は初出で開く。 社内の略語、機械の通称、部署名は辞書にありません。初出だけ正式名称を添えれば、以降は通じます。
これは日本語を不自然にするための作法ではありません。曖昧なまま書かれた指示は、翻訳がなくても現場で行き違います。 翻訳を入れると、その曖昧さが目に見える形で表面化するだけです。ベトナム語での同じ論点は日本語の書き方で翻訳精度を上げるにまとめてあります。
音声メッセージの精度をどう見るか
手が空かない現場では、打つより話すほうが速い。音声メッセージは実務的な選択肢ですが、精度の見方はテキストと少し違います。
音声は、まず文字に書き起こされ、その文字が訳されます。つまり誤りの入り口が二つあります。 書き起こしを間違えれば、そのあとの翻訳がどれだけ正確でも結果は外れます。前の節で挙げた「別の言語として書き起こされた」例は、この入り口で外れた場合に何が起きるかを示しています。
書き起こしの精度が落ちるのは、主に二つの条件です。背景音と、強い訛り。工場の稼働音、屋外の風、建設現場の作業音が入ると、認識は目に見えて落ちます。静かな場所で録り直すだけで結果が変わることは多いので、うまくいかないときは環境を先に疑ったほうが早いです。
運用上の性質として、返ってくるのはテキストです。訳文が音声として返ることはありません。送った音声そのものはトークに残るので、書き起こしが疑わしいときは元の音声を聞き直して確認できます。この「元データが残っている」ことが、音声の精度を扱ううえでは効きます。 書き起こしと原音を突き合わせられるからです。
タイ語の音声を含めた現場での使い方はLINE でタイ語を翻訳する設定と現場での使い方で扱っています。

誤訳に気づける状態をつくる
ここまでの内容を踏まえると、精度の実務的な定義が変わります。問うべきなのは「訳が正しいか」ではなく、「訳が間違っていたとき、どれくらいで気づけるか」です。
この観点で見ると、翻訳の方式によって差が出ます。
翻訳アプリにコピー&ペーストして読む方法では、訳は訳した本人の画面にしか出ません。日本人の班長が自分のスマートフォンでタイ語の連絡を訳して読んでも、その訳文はどこにも残らない。あとで「あのとき何と訳されていたか」を確認する手段がありません。誤訳があったとしても、それが原因だったと特定できないまま終わります。
LINE に組み込まれている翻訳機能は、限られた言語の組み合わせで使えますが、訳は各自の画面に表示される形です。グループ全員が同じ訳文を見ている状態にはなりません。
グループの中で動く翻訳ボットの場合は、原文と訳文が同じトークに並んで投稿されます。全員が同じ訳文を読み、記録もそのまま残ります。これがなぜ精度の話かというと、タイ語と日本語の両方が読める人が一人でもいれば、その人がスクロールするだけで誤訳を見つけられるからです。 現場のリーダー、通訳経験のあるスタッフ、家族。誰でも構いません。訳文が可視化されていることが、点検を可能にします。
そして誤訳が見つかったとき、その場で言い直せます。原文と訳文が並んでいるので、どこがどう外れたかを指して説明できる。翻訳の精度そのものは制御できませんが、誤訳の発見までにかかる時間は、方式の選択で短くできます。
設定は一度で済みます。ボットを友だちに追加し、対象のグループに招いたうえで、グループの中で言語名を空白で並べて指定します。
@Echonora 日本語 タイ語
三つ以上の言語が混じる現場でも、同じ形で言語名を並べて増やせます。対応している言語名の書き方は対応言語リストで確認できます。なお自動翻訳が動くのはグループの中だけです。一人で使いたい場合は、自分とボットだけのグループを作る形になります。
費用のかけ方や無料の範囲についてはタイ語翻訳を無料で使う方法と限界で整理しています。タイ語まわりの背景をまとめて見たい場合はLINE でタイ語を翻訳する方法(ガイド)が入口です。
よくある質問
機械翻訳でタイ語を正確に訳せますか。 日常的な業務連絡であれば実用的な水準で訳せます。ただし、文脈がないと決まらない多義語、打ち間違い、省略された主語や目的語については、この記事で挙げたような取り違えが起こり得ます。原文の書き方で減らし、訳文が見える状態を作って点検する、という二段構えが現実的です。
訳が間違っているかどうかを、タイ語が読めなくても確認できますか。 その一文だけを見て判断するのは難しいです。現実的な方法は二つあります。訳文がグループに残る方式にしておき、タイ語が読める人に見てもらうこと。もう一つは、相手に復唱してもらうことです。「何をいつまでにやるか」を相手の言葉で書き返してもらえば、そのやり取り自体が翻訳を通るので、ずれていれば日本語側で気づけます。
丁寧に書いたほうが正確に訳されますか。 丁寧さと精度は別の軸です。敬語を重ねると文が長くなり、係り受けの解釈が増えるぶん、かえって曖昧になることがあります。丁寧さは保ちつつ、期限・数量・担当者を明示するほうが精度には効きます。
音声とテキストではどちらが正確ですか。 静かな場所であれば、実務上の差は大きくありません。騒音のある場所ではテキストのほうが確実です。音声は書き起こしという工程が一つ増えるぶん、環境の影響を受けます。
設定したはずの翻訳が動かなくなりました。 まず二つを確認してください。LINE アプリの更新後に設定が外れることがあります。その場合はグループの中でもう一度言語を指定し直せば戻ります。もう一つは、有料プランに加入していたメンバーがグループから抜けた場合です。購読は個人に紐づくため、その方が抜けるとグループは無料プランの範囲に戻ります。
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グループの中で原文と訳文が並ぶ状態を、まず一つのグループで試してみてください。
まとめ
タイ語翻訳の精度は、翻訳エンジンの性能だけで決まるものではありません。効くのは三つです。
タイ語と日本語のあいだには、空白のない表記、時制の示し方、指示語の人と物の区別、丁寧さの仕組みという構造的な差があり、そこが崩れやすい箇所になります。次に、日本語側で主語・目的語・期限・数量を省かずに書けば、翻訳が推測で埋める部分そのものが減ります。そして最後に、原文と訳文が同じ場所に並んで残る方式を選べば、誤訳が起きたときに誰かが気づける状態になります。
完全に正確な機械翻訳は存在しません。現場で価値があるのは、間違いが起きない仕組みではなく、間違いが起きたときに早く見つかる仕組みのほうです。